以下のリンクにオイルの黄変についての詳しい説明がありました。
油絵を暗いところに長期間置いておくと絵が黄ばんでしまうことがある。これは乾性油が光の不足に応じて黄ばむ性質を持っているからであり、黄変と呼ぶ。デルナー「絵画技術体系」には「この現象は、非飽和脂肪酸グリセリドの着色酸化生成物の作用に起因し、これは亜麻仁油の乾燥の良さを引き起こす油構成要素そのものである。罌粟油、向日葵油には乾燥を良くするリノレン酸が欠けているので、亜麻仁油のように黄変しない」と説明がある。
どういうことかというと、乾性油という乾く油は酸化によって乾くので、酸素を取り込み反応するためのジョイント部分を分子の中に持っている。リノレン酸という脂肪酸はこのジョイントを二つ持っていて、乾燥が早く、また強く固まる。リノール酸という脂肪酸は一つしか持ってない。そして乾性油はこの二つの脂肪酸を含んでいる。(どちらも十分量含まない油はあまり乾燥しない)
リンシードオイルはリノレン酸が豊富で、よって乾燥が比較的早く、皮膜は堅牢である。一方ポピーオイルやひまわり油はリノレン酸はあまり含まれてなく、リノール酸が多い。乾燥は遅く、皮膜は柔らかい。
そして、デルナーによると、この酸素がジョイントした部分が黄変の原因となっているという。要するに、リンシードオイルは早く乾いて丈夫だが、黄ばみやすい。ポピーなどは乾きづらく脆弱だが、色は綺麗で黄ばみにくい。
このことから仕上げ層などにポピーなど澄明な油を使うことをメーカーなどは勧めている。
黄変のしやすさはヨウ素価によって予測しうる。ヨウ素価は酸化しやすさの数字である。数が大きいほど酸化しやすい=黄変しやすいが堅牢。一例を挙げると
けし油 132.1
亜麻仁油 190.3
(引用:https://www.timeless-edition.com/archives/13584)
一方で、ヨウ素価の減少に反して耐久性が上がっていくオイルも存在する。スタンドオイルという。これはリンシードオイルを空気を遮断しながら250℃~350℃に加熱することで重合という反応をさせて作られる。重合とはこの場合、通常の酸素でジョイントして脂肪酸どうしを繋げていく反応をさせずに、強引に脂肪酸を直に結合させていく状態を指す。反応が進むほどに油は粘りを増し、蜂蜜のようにどろどろになる。ヨウ素価の変移は以下の通りである。
ヨウ素価
生油 169
弱油 100
中油 91
強油 86
(引用:『絵画材料辞典』ゲッテンス、スタウト)
黄変は不飽和度に応じているので、スタンドオイルは耐久性の高い油にも関わらず黄変に強い。ただし、乾くのがめちゃめちゃ遅い。
油絵はこれら黄変とは運命的に切り離せない技術であり、永遠の課題であるとともに受け入れなければならない原罪でもある。本当に黄変が許せないのであるのなら、アクリルに移動するしかない。黄変は工夫して軽減することはできる。しかし、油を使う絵から黄変をなくすことは物理的に不可能なのだ。
ポピー、ひまわり、ウォルナットオイル等、明るい油を使うのであれば黄変についてはだいぶ抑えられる。ウォルナットオイルの変色はリンシードに比べるとやや寒色がかっている。リンシードは、ラングレによれば太陽光に晒して脱色すれば黄変は抑えられる(参照:サンシックンドリンシードオイル)というが、私のテストでは10年でウィンザー・ニュートンのサンシックンド油も生油も黄変し、違いはあっても誤差程度であった。リンシード系はどのようにしてもやはり黄変はする。アルキドも多少黄ばむようである。
黄変が起こってしまった際の処置としては、太陽光に当てて日光浴させてやるといい。ある程度は黄変・暗変は改善する。ただし、元の明るさにまで戻ることはないという。
光不足以外の原因で起こりうる黄変の原因としては、粗悪な顔料や煮えすぎた油の使用、乾燥剤の多用、油や樹脂の入れすぎ、湿気の影響、などがある。油絵は強靭な絵画に思えるけど以外とデリケートなんだね。
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