ブラックウォールナットの退色について




上の写真を見ると、ブラックウォールナットの原木は、中心の黒と周辺の白が非常にはっきりとしています。

ブラックウォールナッツの退色の原因は、木材そのものにあるのではなく、蒸気で蒸して色を均一にするその方法にあると言う記事がありましたので、以下に引用いたします。

記事を読むと、スチームによる均一化が退色の原因となっていると思いました。

「1つのヨーロッパの研究では、16時間、湿度100%、温度100℃が白太と心材の間で最高の均一な色を与えると結論しました」。
Top画像は4枚のブラックウォールナットを撮影したものです。
それぞれ、ジョインター(手押鉋)を通しただけのもので鉋は掛かっていませんが、表情はお判りいただけるでしょう。
下部の濃い部分はオイルを掛けています(OSMO:#1101)
Ⓐ 天然乾燥のみ(工房 悠 管理のもの)
Ⓑ 人乾の製品(米国のNW社製品)
Ⓒ 人乾の製品(北海道に本社のあるN社)
Ⓓ 人乾の製品(静岡、K社で製材、除湿乾燥)
Ⓐ 天然乾燥
これは6年前、静岡市内の木材業者Kさんのところで丸太買いしたもの。
丁寧に天然乾燥させ、数年前からぼちぼち使い始めているブラックウォールナット。
木理は特段個性のあるものでもなく、ごく一般的なものでしょうか。
他のものと比較対照すれば分かりますが、木理に沿い、色調は多彩に展開しているのが認められるかと思います。
緑色は無いようですが、紫紺が冬目部分に認められます。
この縞状に様々に表れるのがブラックウォールナットが標準的に有する色調の特徴です。
Ⓑ 人乾の製品(米国のNW社製品)
160710c10年ほど前、米国に本社があるN社から購入したもの。
この材木業者は、自社で山を持ち、大規模な木材生産をしている会社です。
製材・人乾も自社で行っており、山での伐採から、販売まで一貫生産していている企業です。
この板は、白太が多い部位でしたが、
白太部分にも赤身の色が移っているのが認められるかと思います(特に黄色の斜線部)。
その外側(緑の斜線部)も、やや黒くなっています。
赤身はピンクがかって綺麗ですが、天然乾燥と較べれば、色は薄く、多様な色調は明らかに失われていることが判ります。
Ⓒ 人乾の製品(北海道に本社のあるN社)
赤身にあるはずのチョコレートブラウン色は、ただ黒いだけの色調に変わってしまっているようです。
こうした人乾材は決してめずらしくはなく、通常一般に見られるものと言えるでしょう。
Ⓓ 人乾の製品(国内、K社で製材、除湿乾燥)
これは、工房ショールームの腰板に求めたものですが、ビミョウな多彩さは失われているものの、色調は比較的良く、乾燥材としては優良品と言えるでしょう。
白太が真っ白で、色の移行は認められません。
この白太ですが、腰板にはあえて一部残してあります(サンプルとして一般客への説明に好都合ということもありますのでね)
これは、除湿乾燥という方式の人工乾燥に拠るものです。
これらの比較対照ですが、木材は個体差の激しい自然有機物です。
したがって原木が異なりますので、産地の違い、植栽の違いなど、明らかに条件の異なるものであり、どこまで有用な検証であるかは疑問もあり、極めて限定的なものであることは認めざるを得ません。
そうした限定的なものですが、傾向的な特徴を掴めるものとして有為なサンプルではあるでしょう。
米国Webサイト〈teaming Walnut for Color〉の解読
前回、本件論考に深く関わる資料を米国のWebサイトから示しました。
《Steaming Walnut for Color. A description of Walnut steaming methods.》
このWeb上の資料ですが、読めば、その本旨は明瞭に理解できるものだろうと思います。
乾燥システムそのものにつき、かなり詳細でテクニカル的な領域を含む解説がなされており、私たちの疑問を氷解させてくれるだけの豊かな知見が開陳されていると言って良いでしょう。
ここでは、その要旨につき紹介しておきます。
【Steaming Walnut for Color】
・・・
Black Walnut (Juglens nigra) is a premier species for the lumber manufacturer, demanding top prices.
The heartwood color and the moderately light grain appearance are unsurpassed by any other species. On the other hand, the sapwood of walnut is white. The contrast between heartwood and sapwood is extreme and is difficult to modify or soften in the finishing process.
・・・
The issue of how to improve the appearance of sapwood is becoming more critical in recent years as tree diameters are smaller, meaning more sapwood, percentagewise.
Fortunately, a steaming process, pioneered by Hartzell Company of Piqua, OH, and by Conway Corporation of Grand Rapids, MI was developed over 50 years ago. This steaming of green walnut lumber has proven very effective for darkening the sapwood; it has also been used for beech (mainly done in Europe) and cherry.
The steaming process for walnut varies somewhat from mill to mill, as there has been very little published research looking at the process. One European study on steaming times and temperatures concluded that 212 degrees F at 100% RH for 16 hours gave the best uniform color between sap and heart. They did note that cooler temperatures were not as effective, even when steaming was longer. They also noted that most of the color change occurred during the first four hours. In addition to darkening the sapwood, the steaming process also makes the heartwood more uniform in color.
・・・
The best steaming results are achieved by treating green lumber with wet steam in as tight a structure as possible at temperatures that give the most color in the least time. The lumber is not stickered, but is steamed tight-piled. There are two approaches to steaming. Steaming at elevated pressures and steaming at atmospheric pressure (sometimes called non-pressure steaming, or just called steaming).
A. Pressure steaming. Art Brauner and Ed Conway (Conway Corporation in Grand Rapids) developed the optimum conditions experimentally. Then they settled on steaming at 6 pounds per square inch pressure and 230° F for 5 hours. A longer time is needed in the winter.This procedure not only darkens the sapwood; the heartwood loses its purplish cast and become chocolate brown. Although the coloration is rapid and time saving, the lumber must be cooled in the pressure vessel or end checking and honeycombing occur. An alternative is to take the load out of the retort and cover the wood with a tarp until cool. The lumber is then stickered and kiln dried.
B. Non-Pressure Steaming. Non-pressure steaming of walnut is done in special vats or buildings with provisions for wet steam at temperatures from 190° to 212°.
以下、略
翻訳(機械翻訳に手を加えた程度のお粗末な訳で、間違いがあればご指摘ください)
ブラックウォールナット(Juglens nigra:ブラックウォールナットの学名)は、材木の中でも最高価格で取引されます。
心材の色調は他材種には視られない素晴らしいものです。
一方、ウォールナットの白太(辺材)は白いです。 心材と辺材のコントラストは極端で、仕上げ工程に修正したり、緩和することは困難です。
・・・
近年では、取り分け小径木の辺材の割合からして、この白太の問題が重要になってきています。
幸いなことに、ピクア(オハイオ州の町)のHartzell会社によるsteaming procesは、OH(オハイオ州)、グランドラピッズコンウェイ社、MI(ミシガン州)は50年以上前に開発されました。
生木のウォールナットへのsteamingは、白太を暗くするために非常に有効であることが分かっています。 それはまた、ブナ(主にヨーロッパで行われる)とチェリーのために行われてきました。
ウォールナットのこのsteaming procesの公開された研究資料はごくわずかなものしか無く、工場によって多少異なります。
1つのヨーロッパの研究では、16時間、湿度100%、温度100℃が白太と心材の間で最高の均一な色を与えると結論しました。
長時間の蒸し時間でも、あるいは低い温度でも効果的で無いことに注目してください。
色の変化のほとんどは、スタートして4時間以内に起きていることを指摘しています。
白太を黒くすることに加え、心材の色を均一(uniform in color.)にします。
・・・
最良のsteamingは、最少時間で最大の色変化を与える温度で、できるだけ堅牢な構造で生材を蒸気に晒すことにより達成されます。
・・・
steaming procesには、高圧処理、大気圧処理の2つの方式があります。
A.高圧蒸し
アート・ブラウナーとエド・コンウェイ(グランドラピッズのコンウェイ社)は、実験的に最適な条件を開発しました。
彼らは5時間平方インチ圧と、110℃あたり6ポンドでsteamingすることにしました。
冬場はより長い時間が必要です。
この手順は、白太を暗くするだけでありません。
心材はその紫がかった色合いを失います、そして、チョコレート色になります。
着色は迅速かに短時間に行いたいところですが、材木は圧力容器で冷やされなければなりません、また材の細胞膜が蜂巣状にならないように慎重に冷やされねばなりません。
・・・
B;非圧力(大気圧)蒸し
ウォールナットの非圧力steamingは、88℃〜100℃の高温多湿の蒸気で、特別なバッド、建物で行われます。
以下、略
テクニカル的な部分は少し専門的になりますので省かざるを得ないものの、steaming procesの目的とするするところ、あるいはその効果についても、ほぼ私の認識を補強してくれるものとして記述されていると思います。
辺材を黒く染め、歩留まりを良くし、商品価値を高める。
その結果、心材の複雑な色調は奪われ、平板なチョコレート色に(均一に)なる
それに加え、ここではhoneycombing occur、と記述されていますが、たぶん樹木の細胞レヴェルでの物理的堅牢性が損なわれることを指しているものと思われ(間違っていればぜひご指摘ください)、高温、多湿の窯に長時間置かれる事によるダメージは、相当のものがあるものと考えた方が良いでしょう。
「詐術」:人をあざむく手段。偽計
ブラックウォールナットの価値は、チョコレートブラウンから赤紫、暗緑色等、多彩に展開する濃色の魅力にありますが、辺材(白太)は真っ白で、心材とのコントラストがドラスチックであり、商品化するにあたってはその価値基準からこれを除去するしかないという宿命にあります。
この問題を克服するための有用な方法として人工乾燥工程のプレ段階のSteaming(蒸し上げる)という方法が編み出されたのです。
このSteaming方式はブラックウォールナットの心材(赤身)固有の色素を100℃、100%の蒸気で抽出させ、これを辺材(白太)へと移行させることで黒く変色させ、新たな商品価値を創り出しているわけです。
(因みに日本国内での〈ボイラー乾燥〉では一般的には、90℃、24h という基準だそうです。
また〈除湿乾燥〉では35℃〜40℃でいったん蒸し上げ、その後、除湿で数日掛けるのが基本のようです)
この新たな価値の創出は材木関連産業、木工業界に歓迎されたことは言うまでも無いでしょう。
それまでは薪にしかならなかった白太をも商品とすることで、ブラックウォールナットそのものの「商品価値」を増大させる方法であったのだろうと思います。
これらは工業的な商品としての家具、床材などを制作する企業には画期的なものとして受け入れられてきたものと思います。

しかし、このSteaming工程がもたらすのは辺材の濃色化による歩留まりの大きな改善だけでは無かったのです。
色を抽出されてしまった心材(赤身)は当然ながらもブラックウォールナット固有の複雑多彩な色調を奪われ、本来の魅力を失い、平板で均一な、ただ薄黒いだけの、似て非なる別ものに成り下がってしまったのです。
本件では、こうした工程をあえて「詐術」としてきました(「なんちゃって」というわかりやすい形容も、ややキャッチーな表現ですが、「詐術」を含意することは言うまでもありません)。
私たちのように、木工家具に工芸的価値を追求するる者達にとっては、その用木としてブラックウォールナットとの出遭いは、実に魅力的な素材として歓迎されたものです。
知人の木工家などは、ただブラックウォールナットを使うだけで魅力ある家具を作ることができちゃう、と、ある種の本質を突くようなことを語っていましたが、安易な物言いとしてこれを否定することのできない、それほどにも稀なる材種なのです。
そうしたブラックウォールナットへの高い評価は、あくまでもその素材が本来有する属性、ここでは物理的性質等は省きますが、その色調の魅力を十全に発揮させてこそのものでしょう。
この極めてシンプルで真っ当な思考からすれば、Steaming方式によって作り出されたブラックウォールナットは、本来のブラックウォールナットとは異なるものであるとして、私はあえて「詐術」として捉えているわけです。

事実、こうした人工的に操作されている材木であるにも関わらず、日本国内ではそのことを明示して売買されているでしょうか。
たぶん、そうしたことを知らされずに、これがあのブラックウォールナットなんだと信じて疑わずに購入し、使っている人も少なく無いのかも知れません。
(過去、私の周囲にもそうした知見を持たず、知らずに使っている人は少なくありませんでした)
これらが示すのは、社会的には「詐術」と定義づけられても仕方のない流通の実態と言えるでしょう。
ただ、ここで注意を要します。
私はこうしたブラックウォールナットの人工的な操作そのものを非難しているわけではありません。
ブラックウォールナットはそれなりに供給力を持っているようですが、この天然資源を将来にわたって持続的に有効活用するという立場からは、このSteaming方式は有用であるのです。
色調を本来の姿に留めずとも、他樹種には無い独特の魅力を有し、他樹種と較べても堅牢性の高い物理的特性などとあいまって、市場では高価格で取引されているわけですので、そうした市場形成に異を唱えるものではありません。
(ブラックウォールナットの本来の魅力から歴史的に形成されてきたテキスト、イメージからはほど遠いものの、それをそのまま借用しているあざとさは否定できませんが)
そうではなく、こうした操作を明かさずに、これがブラックウォールナットなんだよと、市場に流通させ、売買され、その背景を知らずに使っているユーザーがいるという実態を知る立場からは、これを明かすだけの意味があるものとして、この問題へのアプローチを試みているのです。
きちんとその実態を検証し、そのメリット、デメリットを示し、その上でユーザーに納得の上で選択させる、そうした公正なる取引が求められるのだろうと思います。
もし、これまでSteaming方式のブラックウォールナットしか使ったことが無く、それがブラックウォールナットなんだと信じ込まされてきた木工屋であれば、ぜひ、天然乾燥による本来の姿を確認して頂き、その真の価値を認めることができるのであれば、それを用いた家具を作っていただきたいと思います。
Steaming方式は、色調の詐術のみなのだろうか。
Steaming方式では、あまりの高温多湿な窯に置かれることで、木材内部の油成分が抜かれてしまう、という話しもあるようです。
これは、木材の物性を変えてしまうことに繋がり、その材種が本来有する物理的特性を脆弱化させるリスクもありはしないかと思うところもあります。
知人の材木業の社長に聞けば、国内の90℃、24hという乾燥システムでさえ、約100年分は劣化する、とのことです。
経年変化による退色について
これまで記述してきたように、私の決して少なく無いブラックウォールナットでの家具制作の体験的実証から、天然乾燥のブラックウォールナットは、ほとんどまったくと言って退色変化を見せていません。
手元にあるものを限定的に対象としても、13〜15年ほど昔に制作したブラックウォールナット家具は制作当時の色調を今に留めているのです。
他方、Steaming方式の人乾材を用いた家具は色褪せを見せています。
また、Web上ではこのブラックウォールナットの退色については、それが当たり前であるかのように、多くの書き込みが視られるところからも、広く知れ渡っている一般的な認識であるようなのです。
こうしたところから、ブラックウォールナットの退色という問題は、Steaming方式と深く関わるという、強い蓋然性が考えられます。
ただ、科学的に立証された知見というものでは無いというところから「蓋然性」としておきたいと思いますが、Steaming方式がもたらす木材の物理的変成を考えれば、様々なところでダメージを受けているだろうことは想像に難くないものがあると思います。
閉ざされた窯の中で100℃、100%という蒸気を24h〜90h浴びせられるわけですからね。
おわりに
これまで3回にわたり、ブラックウォールナットの色調の在り様につき、検証してきました。
私はあくまでも一ユーザーでしかなく、必ずしも専門的な知見を有するものではありません。
ただ長年にわたり、このブラックウォールナットを使い続ける中で、その魅力に助けられ、様々な木工家具を作り、世に問うてきました。
そんな中、周囲から「ブラックウォールナットは色褪せする」というネガティブな話しが漏れ伝わってくるようになり、あるいは「買ったブラックウォールナット材の色が薄い」との嘆きに出遭ったりと続き、他方、私も様々な仕入れルートからブラックウォールナットの原木丸太に接し、あるいは乾燥材製品に接し、他の材種には無い、多様な市場性があることを自覚せざるを得ないという実体験もありました。
そこであらためて、このブラックウォールナットの魅力の最大の原資である色調につき、検証することにしたわけですが、非力さ故に、混乱をもたらしかも知れません。
ただ国内Web上では、この種のデータは皆無に近く、それだけに責任を自覚するとともに、事柄の本質へと真摯に向き合ってきた積もりです。
なお、〈退色〉については、まだまだ検証は足りません。
どうか、読者におかれましては、実体験はもとより、有為な情報があれば、ぜひご教示いただきたくお願いしておきたいと思います。
ありがとうございました。

北欧テイストな木のお店 リーベルクラフト Liber Craft

ウッドターニングを用いて心を込めてひとつひとつ手作りしたコンポート、ケーキスタンド、木の皿、ボウル、コップ、ワイングラス、スクープ、アクセサリーやカトラリーを扱うお店です。 「リーベルクラフト Liber Craft」の名前で、Creemaにお店を出しています。 https://www.creema.jp/creator/3510520 liberwoodcraft@gmail.com